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東京高等裁判所 平成3年(行ケ)233号 判決 1993年1月26日

アメリカ合衆国 カリフォルニア州 94043

マウンテン・ビュー テラ・ベラ・アベニュー 1212

原告

オキシメトリックス・インコーポレイテッド訴訟承継人

アボット・ラボラトリーズ

代表者

チャールズ・エム・ブロック

訴訟代理人弁理士

古谷馨

溝部孝彦

古谷聡

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 麻生渡

指定代理人

細谷博

田辺秀三

田中靖紘

主文

特許庁が昭和61年審判第21392号事件について平成3年3月29日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第1  当事者が求めた裁判

1  原告

主文同旨の判決。

2  被告

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決。

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

被告は、1976年10月18日のアメリカ合衆国特許出願第733279号に基づく優先権を主張して、昭和52年9月30日、発明の名称を「カテーテル装置」(その後「一群のカテーテル」と補正。)とする発明(「本願発明」)につき特許出願(特願昭52-116951号)をしたが、昭和61年6月30日、拒絶査定がなされたので、同年10月31日、審判請求をした。

特許庁は、上記審判請求を昭和61年審判第21392号事件として審理し、平成3年3月29日、「本件審判の請求は成り立たない」との審決をなした。

2  特許請求の範囲第1項の記載

各々が流体の光度分析に用いられるカテーテルの一群において、各カテーテルは少なくとも一本の送光光学繊維と少なくとも一本の受光光学繊維とを有し、光学繊維の各々はその一端の開口から他端の開口に光線を導くよう構成されており、各光学繊維の末端の開口は重心を有し、前記一群のカテーテルの各々及び総てについて送光光学繊維の末端の開口の重心は受光光学繊維の末端の重心から等距離にあることを特徴とする一群のカテーテル(別紙第一図面参照)。

3  審決の理由の要点

(1)  本願発明の要旨は前項記載のとおりである。

(2)  特開昭48-85195号公報(「引用例」)は、血管又はその他の血液含有器官内の血液の酸素飽和を正確に測定する分光測光装置(オキシメータ)に関する発明を開示するもので、該装置に関し、引用例には次の記載があることが認められる(別紙第二図面参照)。

<1> 第2頁左上欄第14ないし16行

「本発明の図示の態様に於いては、放射源と検出器が、光学繊維の光案内体を含むカテーテルの端部附近に設けてある。」

<2> 第3頁右下欄第18ないし第4頁右上欄2行(別紙第一図面Fig.4等参照)

「本発明の好ましい態様に於ける送光案内体9及び受光案内体10は各々たった一本の光学繊維で構成されている。このためカテーテルの構成は極めて単純化され、(中略)更に重要なことだが、光学繊維は2本だけ使用してあるので、カテーテル8の先方チップに於ける光学繊維の孔の間に容易に繰り返し得る且つ固有の安定した幾何学的関係が存在する。送光繊維9及び受光繊維10は、カテーテルからカテーテルへ何回も繰り返すことができ且つ使用された各々の個々のカテーテルの光学的形状の変動を補償するのに校正を全く必要としない光学的測定幾何学を提供するよう先方チップに単に軸方向に平行に且つ相互に密接した状態で保持される。」

(3)  本願発明と引用例の記載内容との対比

(a) 引用例の記載内容が開示するカテーテルは、本願発明でいう「流体の光度分析」(明細書の記載からみて、例えばオキシメータによる生体内血液流の酸素飽和度測定と解される)に用いられるものということができ、かつ、一本の送光光学繊維(送光繊維9)と一本の受光光学繊維(受光繊維10)とを有し、これら光学繊維の各々はその一端の開口に光線を導く(光案内体として作用する)ものであることが明らかであるから、この点では本願発明のカテーテルと差異がない。

(b) 本願発明は、上記のごときカテーテルの一群を対象とし、これについて「各光学繊維の末端の開口は重心を有し、前記一群のカテーテルの各々および総てについて送光光学繊維の末端の開口重心は受光光学繊維の末端の重心から等距離にあること」を要件とするものであるが、該要件で限定する一群のカテーテルとは、明細書の詳細な説明、特に上記カテーテルの一実施例を示す第8図(別紙第一図面Fig.8参照)の記載とその関連説明からみて、例えば、前記一本づつの送光光学繊維と受光光学繊維とを有するカテーテルとして量産された一群のカテーテルであって、すべてのカテーテルについて同一寸法の円形断面を有する光学繊維を用い、これらを少なくとも末端開口付近で相互に密接配置したもの(各カテーテルにおける光学繊維の末端開口形状は、すべて同形状の“相接する同径の2円”となり、各円の中心距離、つまり開口重心間距離が皆等しくなる)を意味していると解されるところ、引用例の記載内容が開示するカテーテルも、診断用部材としての性質上、群として量産され、販売されるものであることが明らかで、これらカテーテルで用いられる前記一本づつの送光光学繊維と受光光学繊維が、すべてのカテーテルで同一径のものであるか否か明らかではないものの、引用例の記載内容の前記<2>の記載及び第4図(別紙第二図面Fig.4参照)の図示態様によれば、これら光学繊維は、各々円形断面を有し、少なくとも末端部開口部付近(カテーテルの先方チップ付近)で相互に密接配置されたもの(末端開口形状が“相接する2円”となるものであることが明らかである。

(4)  以上の認定によれば、本願発明と引用例の記載内容とは、本願発明が、使用光学繊維をすべてのカテーテルで同一径のものとしているのに対し、引用例の記載内容はこの点を明示していない点で相違するだけで、他に格別の相違はないものと認め得る。

(5)  そこで、上記相違について検討すると、本願発明において、使用光学繊維をすべてのカテーテルで同一径のものとしたことの意義は、明細書の目的、作用効果の記載に照らし、光学繊維の末端開口形状がすべてのカテーテルで同一形状(相接する同径の2円)となるので、個々のカテーテル毎の光学的測定値偏差の較正を不要とすることができるというにあると認められるところ、このような意味で使用光学繊維を同一径のものとすることは、引用例の記載内容の前記<2>の記載から当業者には容易に想到し得た程度のことと認められる。すなわち、引用例の記載内容の前記<2>の記載は、2本の光学繊維(送光繊維9と受光繊維10)のカテーテル先方チップにおける幾何学的関係を各カテーテル間で不変とすることにより、個々のカテーテル毎の光学的測定値偏差の較正を不要化できることを開示しているといえるのであり、該開示でいう上記「幾何学的関係」とは、測定光の投受光に関与する光学繊維の末端開口(投光開口と受光開口)についての幾何学的関係をいうものであることは明らかで、かつ上記末端開口は、前述のとおり、使用光学繊維の径で定まる“相接する2円”であることを考えると、本願発明のごとく、使用光学繊維の径をすべてのカテーテルで同一とする(上記2円の径を揃える)ことは、上記引用例の記載内容が開示する幾何学的関係を達成し得る最も単純な一構成として当業者には常識的に想到されるところと認められる。

(6)  以上のとおりであるから、本願発明は、本願発明の優先権主張日前に頒布された刊行物であることが明らかな引用例の記載内容に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められ、したがって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることはできない。

4  審決を取り消すべき事由

(1)  審決の理由(1)及び(2)は認める。同(3)のうち、すべてのカテーテルについて同一寸法の円形断面を有する光学繊維を用い、これらを少なくとも末端開口付近で相互に密接配置したもの(各カテーテルにおける光学繊維の末端開口形状は、すべて同形状の“相接する同径の2円”となり、各円の中心距離、つまり開口重心間距離が皆等しくなる)を意味していると解されるとの審決の認定判断は争い、その余は認める。同(4)ないし(6)は争う。

(2)<1>  本願発明の要旨の解釈の誤り(取消事由1)

審決は、本願発明の要旨の一部を、「すべてのカテーテルについて同一寸法の円形断面を有する光学繊維を用い、これらを少なくとも末端開口付近で相互に密接配置したもの(各カテーテルにおける光学繊維の末端開口形状は、すべて同形状の“相接する同径の2円”となり、各円の中心距離、つまり開口重心間距離が皆等しくなる)」と誤って解釈した結果、本願発明と引用例記載の発明との比較において、本願発明では「使用光学繊維をすべてのカテーテルで同一径のものとしているのに対し、」引用例の記載内容は「この点を明示していない点で相違するだけで、他に格別の相違はないもの」と誤認した。

しかしながら、本願発明は単に「使用光学繊維をすべてのカテーテルで同一径」にしたものではなく、カテーテルの径に相違があっても差し支えない。本願発明の一群のカテーテルは、その特許請求の範囲第1項の記載から明らかなように、送光光学繊維の末端開口の重心と受光光学繊維の末端開口の重心の間の距離が、一群のカテーテルの各々及び総てについて同一であることを要件とするものであって、この構成を採択することにより、製造誤差等により光学繊維の間に径の相違があっても、一群のカテーテルのうちの一つについてキャリブレーション(較正)を行なっておけば、残りのカテーテルについてキャリブレーションの必要なしに使用に供することができるという効果を奏するのであり、単に同一寸法の円形断面を有する光学繊維を用いれば本願発明の一群のカテーテルが得られるというものでない。同一寸法の光学繊維を用いたとしても、そこには製造誤差による重心の異なりが存在すれば、重心間の距離が異なり、それによっては較正を不要とするという本願発明の目的を達成することはできない。

<2>  容易推考性の判断の誤り(取消事由2)

引用例記載の発明は、それまでの血液酸素飽和度測定用カテーテルでは多数の光学繊維が用いられており、それゆえカテーテル先端部においては送光光学繊維と受光光学繊維の間で一定の幾何学的関係が得られなかったという問題点に鑑みて提供されたものである。この問題点の解決策として引用例記載の発明では、送光光学繊維と受光光学繊維とをそれぞれ一本だけ使用し、それによって両者の間で安定した幾何学的関係を得ることを意図している。これにより、従来技術の多数の光学繊維を使用してカテーテルで必要とされる、光学的形状の変動を補償するための較正が不要になると考えたものである。

本願発明は、引用例のような、光学繊維を2本だけ使用している幾何学的関係の安定しているカテーテルにおいても、光学繊維の製造誤差等により、使用される光学繊維の径が多少なりとも変動することから、従来技術の多数の光学繊維を使用したカテーテルと同様に、光学的形状の変動を補償するための較正を行なう必要があるとの認識から出発し、その解決策として、個々のカテーテルの送光光学繊維の開口の重心と受光光学繊維の開口の重心の間の距離が、カテーテルの各々及び総てについて同一である一群のカテーテルを提供したものである。本願発明のカテーテルでは、その一群のうち一つについて較正を行なっておけば、一群中の残りのカテーテルは較正の必要なしに直ちに使用に供することができる。そのために、「各光学繊維の末端の開口は重心を有し、前記一群のカテーテルの各々及び総てについて送光光学繊維の末端の開口の重心は受光光学繊維の末端の重心から等距離にあることを特徴」としたのであって、単に「使用光学繊維をすべてのカテーテルで同一径」にしたものでない。

引用例記載の発明は、使用する光学繊維を従来の多数に代えて、送光光学繊維と受光光学繊維の二本からなるカテーテルを用いることを意図したものであり、これに対して、本願発明は、カテーテルの多数からなる一群のカテーテルの総てにおいて個々のカテーテルの送光光学繊維と受光光学繊維の重心間の距離を等しく保つことを意図しているものである。

なお、本願発明の実施例の第8図(別紙第一図面Fig.8参照)と引用例の第4図(別紙第二図面Fig.4参照)とは共に二本の円形断面の光学繊維からなるカテーテルを示しているが、本願発明はそのようなカテーテルの多数からなる一群のカテーテルの総てにおいて個々のカテーテルの送光光学繊維と受光光学繊維の重心間の距離を等しく保つことを意図しているのに対し、引用例の記載は多数でなく二本の光学繊維からなるカテーテルを用いるという点から上記第4図の如き構成を示しているのであって、本願発明と引用例記載の発明は目的、構成を全く異にしている。

したがって、引用例記載の発明には、「各光学繊維の末端の開口は重心を有し、前記一群のカテーテルの各々及び総てについて送光光学繊維の末端の開口の重心は受光光学繊維の末端の重心から等距離にある」という本願発明の特徴の開示はなく、また、このような特徴を引用例記載の発明から導くことは、当業者が容易に想到することができたものともいえない。

第3  請求の原因に対する認否及び主張

1  請求の原因1ないし3は認め、同4の主張は争う。

2  本件審決の認定判断は正当であり、原告主張の違法はない。

本願発明は、各カテーテルの送光光学繊維の末端開口重心は受光光学繊維の末端開口重心から等距離にあることを要件とするものであり、そして、この要件で限定する一群のカテーテルとは、例えば、一本づつの送光光学繊維と受光光学繊維とを有するカテーテルとして量産された一群のカテーテルであって、総てのカテーテルについて同一寸法の円形断面を有する光学繊維を用い、これらを少なくとも末端開口付近で相互に密接配置したものを意味している。

なお、本願発明の実施例(第8図)(別紙第一図面Fig.8参照)と引用例記載のカテーテルと類似点を持つものである。

第4  証拠関係

証拠関係は本件記録中の書証目録の記載を引用する。

理由

1  請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、2(特許請求の範囲第1項の記載)及び3(審決の理由の要点)は、当事者間に争いはない。

2  原告主張の審決の取消事由について検討する。

(1)  取消事由1について

各々成立に争いのない甲第2号証(願書添付の明細書及び図面)及び甲第3号証(昭和62年10月9日付手続補正書)(以下両者を総称して「本願明細書」という。)によれば、本願明細書には、「分析している血液などの流体から反射される光線の強度について、送光光学繊維の末端部の開口の領域の重心と受光光学繊維の末端部の開口の領域の重心との間に特別な関係があることを見出した」(前掲甲第3号証8頁2行ないし6行)、「従来のカテーテルでは、測定される反射光の強度はカテーテルごとに異なり、新しいカテーテルを使用する毎に、そのカテーテルをキャリブレーションしてオキシメータを較正することが必要であった」(同8頁17行ないし9頁1行)、「同一の規格において製造した場合であってもそこには誤差が存在する。」(同9頁3行ないし5行)、「このような直径の異なりにより、これらのカテーテルを並べて配列した従来のカテーテルを同一のオキシメータに接続する場合、正確に測定を行おうとすれば、各々のカテーテルについてキャリブレーションを行うことが当然に必要となる。本発明では、前述の知見に基づき、個々のカテーテルの送光光学繊維の開口の重心と受光光学繊維の開口の重心の間の距離が、一群のカテーテルについて総て同じであるように、またカテーテルが複数の送光光学繊維及び/又は受光光学繊維を含む場合にはこれらの総てについて末端開口の重心間の距離が同じであるようにしている。これにより、その一群のカテーテル内にあるどのカテーテルを用いても同一の結果が得られることになる。従って、一度キャリブレーションを行っておけば、新しいカテーテルを使用する毎にオキシメータを較正する必要はない。」(同9頁9行ないし10頁6行)、「なお従来のカテーテルでは直径の異なりの他に、断面形状の不規則性や非円形性などによっても、個々にキャリブレーションを行う必要性が生じてくる。」(同10頁7行ないし10行)と記載され、本願明細書添付の図面(別紙第一図面)には、複数の円形の受光光学繊維(R)が単一の円形の送光光学繊維(T)に隣接して配置され、各受光光学繊維(R)の末端の開口の重心がそのいずれもが接する単一の送光光学繊維(T)の末端の開口の重心から等距離にあるが、受光光学繊維(R)と送光光学繊維(T)とがその径を異にしている第2図の実施例(前掲甲第2号証19頁ないし20頁の図面の簡単な説明及び別紙第一図面Fig.2)、複数の円形の送光光学繊維(T)が円形の単一の受光光学繊維(R)から離れて位置し、離れて位置する各送光光学繊維(T)の末端の開口の重心が単一の受光光学繊維(R)の末端の開口の重心から等距離にあるが、受光光学繊維(R)と送光光学繊維(T)とがその径を異にしている第3図の実施例(同説明及び別紙第一図面Fig.3)、各対の正方形の受光光学繊維(R)の面積の重心が各対の正方形の送光光学繊維(T)の末端の開口の重心から等距離に配置されている第5図の実施例(同説明及び別紙第一図面Fig.5)、さらに、各複数の矩形受光光学繊維(R)の末端の開口の重心が単一の正方形送光光学繊維(T)の末端の開口の重心から等距離に配置されている第6図の実施例(同説明及び別紙第一図面Fig.6)が記載されていることが認められる。

上記各記載によれば、本願発明の技術的課題は、製造誤差による光学繊維の直径の相違、断面形状の不規則性や非円形性等によって、従来技術においては不可避であった個々のカテーテル毎の光学的測定値偏差の較正を不要にすることであって、本願発明は、その手段として、カテーテルの各々及び総てについて「送光光学繊維の末端の開口の重心は受光光学繊維の末端の開口の重心から等距離にある」構成を採用したのであるが、この構成は、送光光学繊維の末端の開口と受光光学繊維の末端の開口の各々の形状が円形であることを要件とするものでなく、またその直径が同一であることを要件とするものでもなく、各々の送光光学繊維の末端の開口の重心から各々の受光光学繊維の末端の開口の重心までの距離が等しくあることのみを要件としているものであることは、その特許請求の範囲第1項の記載自体から明らかであり、また、そのことは、本願明細書の詳細な説明及び図面の記載によっても裏付けられているものということができる。

審決が上記構成要件を「すべてのカテーテルについて同一寸法の円形断面を有する光学繊維を用い、これらを少なくとも末端開口付近で相互に密接配置したもの」と限定的に解釈したことは、本願発明の要旨の解釈を誤ったものというべきである。たしかに、同一寸法の円形断面を有する光学繊維を用い、これらを少なくとも末端開口付近で相互に密接配置したものと解される実施例が前掲甲第2号証の第1図、第4図、第8図(別紙第一図面Fig.1、Fig.4、Fig.8)に記載されていることが認められるが、たまたま同一寸法の円形断面を有する光学繊維について各々の末端開口の重心からの距離を等しく配置すると、結果として、上記実施例のような配置になることがあるにすぎないのであって、かかる実施例を根拠に上記構成要件について、審決のように限定的に解釈することは誤りである。

(2)  取消事由2について

次に、前項において判示した本願発明の要旨を前提として、本願発明が引用例に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるか、判断するに、前掲甲第2、3号証及び成立に争いのない甲第4号証によれば、引用例に添付された第4図(別紙第二図面Fig.4)には、本願明細書添付図面の第8図(別紙第一図面Fig.8)に図示された実施例と同様の、送光光学繊維と受光光学繊維とを各々一本だけ使用することが記載されていることが認められる。

引用例記載の発明が、このような構成とした目的について、前掲甲第4号証によれば、引用例には、「送光繊維9及び受光繊維10は、カテーテルからカテーテルへ何回も繰り返すことができ且つ使用された各々の個々のカテーテルの光学的形状の変動を補償するのに校正を全く必要としない光学的測定幾何学を提供するよう先方チップに単に軸方向に平行に且つ相互に密接した状態で保持される。」(4頁左上欄15行ないし右上欄2行)、「従来技術で普通使用されている多数又は数百の繊維に比べて本発明では光案内体として光学繊維を2本のみ使用するので、カテーテルの先端部に於ける送光及び受光用の光案内体の孔の間の幾何学的測定が均一に行われ、こうして各カテーテルに目盛りを刻まなくてもよいようにする。」(2頁右上欄1行ないし7行)と記載され、実施例の説明として、「(8)長さ方向に沿って管を第一及び第二の分離された導管に分離させるため内部にセプタムを含む管と、前記導管が光案内体の先方端部の周りでシールされた状態で導管の第一の導管内に且つその長さ方向に沿って位置付けられた一対の可撓性で連続的な光学的光案内体と、流体を第一導管内の光案内体との接触から開放させて第一導管中で導くためその両端部に於いて開いている第二の導管とで特徴付けられる前記各項記載の装置内で作動するカテーテル」(9頁左上欄4行ないし14行)と記載され、その添付図面第4図(別紙第二図面Fig.4)に引用例記載の発明のカテーテルの断面図が記載されていることが認められる。

上記各記載によれば、引用例記載の発明は、光学的形状の変動を補償するためのキャリブレーション(較正)を必要としないことを目的の一つとするものであるが(なお、上記記載中の「各カテーテルに目盛りを刻まなくても」は「各カテーテルを校正しなくても」の趣旨と解される。)そのための光学的測定幾何学として、先方チップに単に軸方向に平行に且つ相互に密接した状態で保持する光案内体として光学繊維を2本のみ使用し、かつ、2本のカテーテルを各々長さ方向に沿って第一及び第二の分離された導管に分離してシールすることにより、カテーテルの先端部における送光及び受光用の光案内体の孔の間の幾何学的測定が均一に行われるようにしたものであることが認められる。

このように、引用例記載の発明は、送光光学繊維と受光光学繊維とを各々1本だけ使用し、軸方向に平行かつ相互に密着した状態で保持したために、各々に多数の光学繊維を使用した場合に比べ、送光側と受光側の幾何学的関係が単純化され、どのカテーテルをとっても同様の関係を維持されるという構成であるため、使用された各々の個々のカテーテルの光学形状の変動を補償するのに較正を必要としなくなるにすぎない。したがって、製造誤差等による光学繊維の径、形状等の相違を考慮に入れ、仮にこれらが異なっている場合等であっても、個々のカテーテル毎の光学的測定値偏差の較正を不要にするという本願発明の技術的課題及びそのために本願発明が採択した前記構成までを、引用例が開示しているものとは認められず、引用例の記載内容に基づいて当業者が本願発明を容易に想到することができたものということはできない。

(3)  したがって、本願発明は本願の優先権主張日前に頒布された刊行物であることが明らかな引用例の記載内容に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められ、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることはできないものとした審決は、違法として取消を免れない。

3  以上のとおり、原告の本訴請求は、理由があるものとして、これを認容することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第7条、民事訴訟法第89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松野嘉貞 裁判官 濵崎浩一 裁判官 押切瞳)

別紙 第一図面

<省略>

別紙 第二図面

<省略>

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